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“そのままの暮らし”が残る茂原で実現した夢のカフェ

“そのままの暮らし”が残る茂原で実現した夢のカフェ

茂原市(東京都→茂原市:2013年~)

今野博之さん・素子さん(カフェ経営)一家

茂原市の県道27号沿いに、週末ともなれば県外からも多くの人が訪れる人気のカフェがあります。店のオーナーは2013年に東京から移住してきた今野さんご夫妻。移住当初は「地元の人に“こんな何もないところでカフェをやっても人は来ないよ”といわれた」ほどの、のどかな場所に、オーナー夫妻のこだわりが詰まったとびきり素敵な空間が広がっています。

夢だったカフェ開業に向けて

元・保育士の素子さん。カフェ開業の夢のため「できることは多い方がいい」と考え、調理師免許を取得したり、パン屋さんで働くなど経験を積んだそう

東京都から移住した今野さんご夫妻が営む「コーヒーくろねこ舎」。築40年以上の民家をリノベーションしたカフェは、妻・素子さんの長年の夢だったといいます。

素子さんは東京都世田谷区出身。都内で保育士として働いた後、複数の飲食店に勤めながらカフェ開業の夢を膨らませていましたが、そこで高いハードルとなったのが開業資金の問題でした。

「最初は下北沢とか三軒茶屋の辺りで物件を探そうと思っていたのですが、とてもとても(苦笑)。保証金だの保険だのを含めると軽く1,000万円は必要で、そこから更に毎月の賃料がかかるとなると、とうてい私たちには無理だなということになりました」

次に素子さんが目を付けたのは「両親と旅行して気に入っていた場所」だという鎌倉や秩父など。「歴史ある町でコーヒー店をやりたい」という希望に添った場所でした。

しかし、それも「私が気に入る場所は、他の人も気に入るわけで、やっぱりハードルは高かった」と断念。「いっそ、主人の故郷の山形県に行こうか」と思っていたところに、博之さんが「千葉県もいいんじゃない?」と言い出したそうです。

きっかけになったのは、いすみ市の自然の中にカフェや宿泊施設などが点在する「ブラウンズフィールド」。博之さんは、そこでの2週間の泊まり込み体験を通して、「自然が豊かで気候がよく都心にも近い」千葉県の良さを実感したそうです。

物件探しのちょっとしたこだわり

近所に住む宮大工さんが建てたという離れ。「躯体がしっかりしていたので、リフォームは壁や柱を塗るくらいですんだ」のだそうです
  • 店内のあちこちに素子さんお手製のドライフラワーが飾られています
    店内のあちこちに素子さんお手製のドライフラワーが飾られています
  • 仲むつまじい今野さんご夫妻。博之さんは社会福祉士の資格を持ち、都市でも地方でも働ける場所がたくさんあると実感。移住当初は介護の仕事をしていましたが、現在はお客さんも増え夫婦2人で店を切り盛りしています
    仲むつまじい今野さんご夫妻。博之さんは社会福祉士の資格を持ち、都市でも地方でも働ける場所がたくさんあると実感。移住当初は介護の仕事をしていましたが、現在はお客さんも増え夫婦2人で店を切り盛りしています

こうして千葉県にターゲットを絞った今野さんご夫妻。「自然に囲まれた生活がしたい」という博之さんと、「田舎というものがなかったので古民家に憧れがあった」という素子さんには、物件を探す上で、それぞれちょっとしたこだわりのポイントがありました。

博之さんの条件は「住居と店舗は物理的に分けること」。素子さんは「今になって思えばあまり意味はなかったですが」と前置きしつつ、「バスが通っている場所にこだわってしまったんです」と笑います。理由は「自分が地方のカフェに行くとき、バスの時間を調べて行くのが普通だったから」。また、「バスが通っていないような山奥の場合、年齢を重ねた後が大変。ある程度の利便性は確保しておきたかった」という考えもありました。

ほかに、2人が揃ってこだわったのは「すぐに住める状態の建物」。あまりに長く放置された建物は「改修に時間もお金もかかってしまう」ため、肝心のカフェ開業が遠ざかってしまうからです。

長く住み続けられるイメージができるかどうか

主に博之さんがリフォームを担当したという店内。落ち着ける雰囲気で、ついつい長居してしまいそう
  • 本のページをめくりながらコーヒーを待つ至福のひととき
    本のページをめくりながらコーヒーを待つ至福のひととき
  • ネルドリップで丁寧に淹れた香り高い1杯を
    ネルドリップで丁寧に淹れた香り高い1杯を

「コーヒーくろねこ舎」があるのは、茂原市の県道27号沿い。敷地内には、明治時代に建てられた主屋(住居として使用)、その裏に倉庫用の小屋、そして店舗として使っている離れが立っています。

「この家&店舗に決めるまでに30軒近くは物件を見ました」と当時を振り返る素子さん。「真剣に物件を探し始めてから1年半ほどで決心が着きました」という“我が家”との出合いは、意外にも早い時期だったとか。

「実は、千葉県の古民家を探し始めて最初に紹介されたのが、この物件でした。ただ、その頃は価格のこともあって、とりあえず保留という感じで、不動産屋さんにはお断りを入れたんです。その後、別の不動産屋さんと色々な物件を見て回り、最後に紹介されたのが、またこの家でした(笑)。その時には価格が当初の2/3くらいに下がっていて、結局、ここが一番いいねとなりました」

今野さんご夫妻が物件探しのパートナーに選んだのは、田舎暮らしや古民家に特化した「田舎暮らし・千葉房総ねっと」。代表自身が移住実践者で、古民家交流会などを開催しています。今野さん夫妻も交流会に参加して、移住の先輩たちの体験談を聞き、大いに参考になったといいます。

当時の物件めぐりを「楽しかった」と懐かしむ素子さん。最終的には「長く住み続けられるイメージがわいた」ことで、現在の住居&店舗に落ち着き、2013年から茂原での生活をスタートさせました。

こだわりのコーヒーと地元産食材たっぷりの料理

  • 東ティモール産の豆で淹れた「シティロースト」のコーヒー。マイルドな味わいで飲みやすい
    東ティモール産の豆で淹れた「シティロースト」のコーヒー。マイルドな味わいで飲みやすい
  • パティシエ経験もある素子さんお手製のケーキ。生クリームには、牧草だけを食べて育つ牛の「グラスフェッドミルク」を使用
    パティシエ経験もある素子さんお手製のケーキ。生クリームには、牧草だけを食べて育つ牛の「グラスフェッドミルク」を使用

「コーヒーくろねこ舎」の営業は基本的に週4日(不定休あり)。営業時間は11時30分から16時まで。これはあくまで「自分たちだけで、自分のペースで」店を切り盛りするため。2015年の開店当初は、「毎月の賃料がかかるわけではないので、1日に5人お客さんがくれば、なんとかやっていける」という算段でしたが、9年目に入った今では週末は予約必須の人気店へと成長を遂げています。

メニューは、こだわりのコーヒー、地元産の食材を使った日替わりランチ、季節のフルーツたっぷりのスウィーツなど。

自慢のコーヒーは、「生産者さんに直接いくら支払っているのかを明示しているダイレクトトレードの業者さん」などをメインに豆を仕入れ、手回しの焙煎機で少量ずつ自家焙煎し、注文ごとにネルドリップで淹れています。

素子さんは銀座の老舗コーヒー店で7年間、修業を積みましたが、「老舗で、長く経験を積まれた先輩たちに囲まれる中、コーヒーを淹れる実践的なポジションを任されるまでに、2年もかかりました。ジレンマもありましたが、先輩たちの手や動きをみて、たくさんの学びのある時間でもありました。そうした中、自宅でも焙煎を始めてたどり着いた」のが、この淹れ方なのだそう。

この日のランチ「北総豚のビビンバプレート」。黒米を入れて炊いたご飯の上には、「庭に自生していた」というセリの葉がのっています

料理については「作り方というより、素材の“旬”を楽しむことにこだわりたい」と素子さん。

「茂原に来て初めて“新鮮”という言葉を実感したんです。たとえば収穫したての大根に包丁を入れると水があふれてくる。野菜が一番やわらかい瞬間に収穫するから“朝どり”が美味しい。そういう諸々が言葉やフレーズだけでなく、いちいち腑に落ちたというか。都会だと特別なイベントのように扱われるモノやコトが、ここでは当たり前なんだと。それをお客さんにも感じてもらえるように料理ができたらうれしいです」

ちなみに、この日のランチは「北総豚のビビンバプレート」。お米は、いすみ市で自然栽培を実践している「つるかめ農園」さん、卵は長生郡にある「みのりファーム」さんなど、地元の食材が満載。醤油や味噌などの調味料は自家製だそうです。

「お客さんに聞かれたら、自分の言葉で話ができるものを提供したい」という素子さん。料理だけでなく、店内に置かれた本の数々も「私たち夫婦2人で集めたものと、私の祖父から譲り受けたもの」に限定。「たまにうちの本を譲るよと言ってくださることもあるのですが、遠慮させていただいてます」とのこと。

「この店のすべてのものに物語がある」――そのこだわりによって「コーヒーくろねこ舎」の得も言われぬ居心地の良さが醸し出されているのかもしれません。

茂原に決めてよかった

「茂原の駅に降り立つと森の匂いがする」と話す素子さん。「昔ながらの姿が残る茂原の“そのまま”がとても愛おしい」と思うとか

念願のカフェ開業から9年目。「正直“この建物ありき”で場所を決めたので、茂原という地域についての知識はあまりなかった」という素子さんに、あえて茂原の魅力について聞いてみると、「観光地化されていない“そのままの暮らし”が残っているところ」との答え。

「一般的にカフェをやるのに向いていると思われがちな人気のエリアは、既に独自の文化が出来上がってしまっていて、私たちの入る隙もないですし、茂原はいい意味で“何もない”ところがよかったですね。目の前に里山の風景が広がっていて、ちょっと足を延ばせば知る人ぞ知るきれいな切り通しの道があったり……。移住してきて11年目ですが、いまだに毎日のように“あぁ、きれいなところだなぁ”と感動します」

そんな素子さんは今後について、「ここの時間の流れ方だと、10年やってもまだまだ“新しくできた店”の範疇。20年、30年と続いてやっと“あぁ、あの昔からあるコーヒー屋さん”となるんだろうと思うので、そうなれるまで続けていきたいです」と話してくれました。

都会生まれの彼女が見つけた理想の場所で、夢は確実に花開き、茂原の地に息づいています。

“そのままの暮らし”が残る茂原で実現した夢のカフェ

プロフィール

茂原市

今野 博之さん・素子さん

家族構成 夫婦
移住経験 東京都→茂原市
職業 博之さん 会社員→カフェ経営、素子さん 飲食店勤務→カフェ経営
住居 中古の一軒家
地域交流 博之さんが消防団に参加
支援制度利用

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