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リノベーションによるまちづくりで館山に“居場所”と“出番”を作る

リノベーションによるまちづくりで館山に“居場所”と“出番”を作る

館山市(大阪府→埼玉県→東京都→館山市:2016年~)
漆原 秀さん(大家、飲食店店主、マイクロデベロッパー)

房総半島の南端に位置する館山市。シーズン中は観光客でにぎわうものの、館山駅前の商店街には空き店舗も増え、中心市街地の空洞化が進んでいました。そんな館山駅前の風景が、今、少しずつ変わろうとしています。「鯛あら汁・おにぎり Kichi」の店主であり、マイクロデベロッパーとしてまちの再生に取り組む漆原秀さんに、館山市でのまちづくりについてお話を伺いました。

店主とマイクロデベロッパーという2つの顔

定番メニューの鯛あら汁定食(おにぎり2個)。おにぎりには人気の卵黄をトッピング
  • 壁面には「DELICIOUS ONIGIRI AND EXCELLENT! ARAJIRU」の文字が
    壁面には「DELICIOUS ONIGIRI AND EXCELLENT! ARAJIRU」の文字が
  • 近所の魚問屋から仕入れている南房総勝浦産の鯛
    近所の魚問屋から仕入れている南房総勝浦産の鯛

JR館山駅の東口に店を構える「鯛あら汁・おにぎり Kichi」。提供しているのは、千葉県の名産品のひとつである鯛を使ったあら汁です。お椀に鯛のカブトがドドンと入ったあら汁(房州弁で「でぇじる」)は、インパクトも抜群。郷土料理のさんが焼きをアレンジした「鯛さんが」や館山のジビエを具材にしたおにぎりも好評で、駅前という立地も相まって観光客や地元の人々でにぎわいます。

実は、この店の主である漆原さんには、マイクロデベロッパーというもうひとつの顔があります。マイクロデベロッパーとは、大規模な開発ではなく、不動産投資とリノベーションを掛け合わせてまちづくりを行い、その地域の価値を高める活動をしている人のこと。大阪生まれ、埼玉育ちの移住者である漆原さんは、2016年に館山市に移り住んで以降、現在までにさまざまな遊休不動産を再生してきました。

不動産投資からコミュニティ型賃貸住宅の大家へ

  • ミナトバラックスは、DIY自由、原状回復義務なしというユニークな賃貸住宅
    ミナトバラックスは、DIY自由、原状回復義務なしというユニークな賃貸住宅
  • 壁面のペイントもおしゃれ。1階には漆原さん自らDIYした共用スペースも
    壁面のペイントもおしゃれ。1階には漆原さん自らDIYした共用スペースも

学生時代に起業し、IT企業へ転職、再起業と、東京で仕事にまい進していた漆原さん。そんなときに母親の病気がみつかり、環境のよい場所で過ごしてもらおうと埼玉の実家を売却。そのお金を元に館山市に両親のための戸建てとアパートを建設しました。その後、再びサラリーマン生活を送ることになりますが、ストレスから自身がパニック障害に。もう会社に雇われる生き方はできない。そう思ったときに頭に浮かんだのが、館山市のアパートで賃貸収入を得ていること。そこから漆原さんは本格的に不動産投資を開始します。しかし…。

「大家なのに住人と会ってもお互い挨拶すら交わさない。その関係が嫌だなと。そんなときに、コミュニティのある賃貸住宅というものを提唱している青木純さんの著書に出会いました。ちょうどその頃、親のための建てたアパートの隣にあった元官舎が売りに出されることを知って、そういう賃貸住宅を作るには最適だと思ったんです」

こうして2017年、元公務員宿舎をリノベーションした集合住宅「ミナトバラックス」を創り上げました。1組目の入居が決まったのを機に家族で館山市に完全移住し、住人たちと食事会をしたり、夏祭りをしたりと、家族や住人とともにコミュニティのある暮らしを満喫する日々。そんななかでコミュニティの強さを感じたのが、2019年の房総半島台風でした。

「停電になってもみんなで1階の共用スペースに集まって、“食材が腐っちゃう前にバーベキューしよう!”と明るく災害を乗り切ることができました。ふだんからコミュニケーションをとっていれば、災害時にも自然と助け合える。それが実感できた出来事でしたね」

市を巻き込んでのまちづくり事業へと発展

  • 「tu.ne.Hostel」に泊まりに来た外国人旅行者との交流でグローバルな視点も得られたそう(「tu.ne.Hostel」は現在2代目経営者へ事業譲渡済み)
    「tu.ne.Hostel」に泊まりに来た外国人旅行者との交流でグローバルな視点も得られたそう(「tu.ne.Hostel」は現在2代目経営者へ事業譲渡済み)
  • 漆原さんの娘さんが作った「消滅可能性都市」をもじった「“超絶”可能性都市」ステッカー
    漆原さんの娘さんが作った「消滅可能性都市」をもじった「“超絶”可能性都市」ステッカー

「青木純さんが主宰する『大家の学校』にも通っていたのですが、そこで教えられたのは、エリアに根差しなさい、エリアの価値を上げなさい、ということ。ミナトバラックスはコミュニティのある楽しい暮らしが創れたけれど、エリアに目を向けてみると駅前はシャッター商店街。子どもたちに、このまちに未来があると思ってもらいたい。そんな使命感みたいなものが湧いてきたんです」

ゲストハウスがまちを活性化させた事例があることを知った漆原さんは、元診療所だった建物をリノベーションし、2019年に「tu.ne.Hostel(ツネホステル)」を開業。そんな漆原さんの活動が当時の館山市長の耳に入り、直接プレゼンする機会が訪れました。そこでリノベーションを軸にしたまちづくりを提案するも当初は予算が付かず、師である青木純さんに相談し、まずは無料の講演会を開催することに。限定100名の予定でしたが、蓋を開けてみると商店街の人や市議会議員など220名もの人が集まり、会場は大きな熱気に包まれました。その熱意は市を動かし、ついに官民一体のリノベーションまちづくり事業へと発展。そこで出会った仲間たちとともに館山駅東口駅前の元デパートだった建物の再生に取り組み、2022年、民営パブリックスペース兼テナントスペース「sPARK tateyama(スパークたてやま)」を完成させました。

「民でできることをやって初めて官が支援してくれる、マルシェで生産者の顔を見て買い物をすることもまちづくり。そういうことを講演会やイベントなどでコツコツ広めていったことで、当事者意識を持つ地域の方が増えていったのかなと思います」

エリアの価値を高めるために自分ができることを

ラウンド型の建物が目を引く「CIRCUS」。1階が「永遠の図書館」(2025年10月現在は一時休館中)

自身の事業としては築60年の薬局を再生して、2021年にシェアオフィス「CIRCUS(サーカス)」と戦争資料館「永遠の図書館」を開業。そして2024年、駅前のさらなるにぎわい創りを目的に「鯛あら汁・おにぎり Kichi」をオープンしました。

「sPARKは若い世代には受け入れられたものの、地域のおじいちゃんおばあちゃんはちょっと入りにくいようで…。もっとふらっと立ち寄れる業態が必要だと考えたんです。そこで地元の魚を使った汁物、みんながいつでも食べられるおにぎりを出そうと思いました。今後はKichiの2号店、3号店を作れたらと思っています。調理のスキルを持っていても不動産や事業企画の知識がなくて長続きしない人を見てきました。調理は得意な方にお任せしつつも、初期の見立てやビジネスモデルの部分をお手伝いするようなかたちで、県内の過疎のまちでKichiを広めていけたらと思っています」

マイクロデベロッパーとしては自身で講座を開催し、これまでに培ったノウハウを未来のデベロッパーたちへと伝えています。

「地域おこしをやろうと思う人って、ピュアでお金を二の次に考えてしまう人が多いんです。そこで、夢やロマンと事業計画やお金のバランス、適切なリスクを取りながらリターンを得る手法を教えています。あとは僕がそうだったように、お金のために不動産投資を始めたけれど、どうせなら地域に貢献したいと参加する人も。潜在的に、自分を育ててくれた地域に恩返しがしたいという思いを持っている方は多い気がします」

“居場所”と“出番”があれば移住者も輝ける

休日はほとんどないが、やりたいことを仕事にしているのでライフワークバランスはとれているとのこと

移住と仕事は切っても切れない関係ですが、自身で事業を行う漆原さんから、地方起業についてこんなアドバイスも。

「そこにあるものから何かを生み出そうと思える人にはチャンスが多いと思います。市場は大きくはないですが、競争相手は少ないし、不動産を買うにしても借りるにしても都市部より安く済む。その地域での“初めて”や“いちばん”を作りやすいのもメリットですね」

まちの未来を考え、ときに戦略的に奔走する漆原さん。コミュニティを育み、エリアの価値を引き上げる。まちづくりという大きなプロジェクトを動かしているその根底には、こんな思いがあります。

「人には居場所と出番が必要なんです。僕はコミュニティを作るときに“これはあなたの出番ですよ”という場面を敢えて作るようにしています。例えば、ミナトバラックスが居場所だとして、何かが壊れたら電気工事士の住人に頼るとか、バーベキューを得意な人に任せるとか。そういう小さなことでいいんです。安心できる居場所とその人の経験が活きて誇れる出番があれば、人は輝けるし移住者であっても孤独じゃない。それを用意することが、僕自身の居場所であり出番だと思っています」

本稿は、2025年9月の取材に基づいています。

リノベーションによるまちづくりで館山に“居場所”と“出番”を作る

プロフィール

館山市

漆原 秀さん

家族構成 夫婦、娘1人
職業 大家、飲食店店主、マイクロデベロッパー
住居 戸建て
支援制度利用

相談窓口

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