1. Top
  2. ちばの人
  3. 人の営みの原点を体験しつつ、ローカルベンチャーで地域に貢献

ちばの人 INTERVIEW ちばの人 INTERVIEW

人の営みの原点を体験しつつ、ローカルベンチャーで地域に貢献

人の営みの原点を体験しつつ、ローカルベンチャーで地域に貢献

富津市(東京都→バンコク→横浜市→仙台市→富津市:2019年~)

山本和志さん(ちんたら村・村長)

東京湾アクアラインの着岸地にほど近い房総半島の中西部にあり、マザー牧場や鋸山などの観光地で知られる自然豊かな富津市。市内を走るJR内房線の上総湊駅から山に分け入り車を走らせて20分ほど、緑の木々に囲まれた一軒家で1頭の大型犬と2匹の猫とともに山本和志さんは暮らしています。山本さんが移住してきたのは25歳の頃。田舎暮らしを体験しながら、自然とともに暮らす集落での理想と現実の折り合いを探りつつ、自分らしい生き方を実践しています。

生活の根源的なことを体感できる田舎暮らしに惹かれて

移住後すぐに定住を決意し、古民家を購入。家の改修には廃材を使うなどSDGsを実践している

山本さんは元保育士で、横浜の大学の教育学部を卒業後、仙台のこども園で働いていました。子どもが健やかに、自立性をもって成長するのに必要な環境とは?を保育士的な観点で模索する日々の中、東京で保育園の理事長をされている方と出会います。

「理事長さんがとても魅力的な方で、自分の教育的な考えや理想とマッチしました。その方に富津市の別荘に誘われ、この集落のことや地域の人たちと知り会えました。2度目に富津市に訪れた時、猟師さんがしとめたばかりの鹿の血抜きから肉をさばくところまで見せていただき、ここで過ごすことで衣食住の基本的な循環を体験できると実感。この集落で勉強したいなと移住を決めました」

2019年3月より、保育園が所有する畑の管理人&農業スタッフとして住み込みで働くことに。6月には独立するための空き家を探しはじめ、今の物件を9月に購入。保育園に勤めながら『ちんたら村』の村作りをスタートさせます。

「昔の人たちが衣食住を維持するためにやってきた生活の根源的なことを、現代の子どもたちに伝えたい。その場として、親子で田舎の暮らしが体験できる『ちんたら村』を作りました」

子どもの自立性を育む「村」という環境づくり

広々とした敷地には井戸やピザ釜、サウナまで自作で設置。取材時には、有害駆除でとらえた生き物を活用するための作業場を建設中でした

購入した古民家は長年住んでいなかったために朽ちる寸前だったそう。DIYで家を改修し、薪ストーブや囲炉裏などを設置。広々とした敷地内には仲間と掘った井戸や、羽釜で煮炊きするかまど、ピザ釜やサウナなど、自作の設備が並んでいます。

井戸やピザ釜作り、畑の開墾や無農薬栽培の田んぼの農作業、防獣対策の柵作りなどは『ちんたら村』での活動の一環だといいます。

ここに移住を決めたのは、子どもの自立性を育む教育の場所として魅力に感じたから。
「なぜ水道から水が出てくるのか、井戸の水を使いすぎると水が枯れてしまうのはなぜなのかなどを、体験的な暮らしの中で自らの手で理解してほしい。人はどうやって自立していくのか、社会にどう携わっていくのか、その子自身が能動的に育っていく環境を作るために、令和の村生活を作りたくて『ちんたら村』を立ち上げました」

温暖で過ごしやすいおおらかな自然があり、海と山が近く、人も温かいこの地で、「ちんたら村」の子どもたちはのびのびと育っていきました。しかし、村の活動が5年を数えるころに、課題も見えてきました。村を利用していた移住者のファミリーが、子どもが小学校に上がるタイミングで教育制度の整った場所へ引っ越してしまうのです。このため、現在は自身の体力や経済性なども考えて運営方針を転換。現在は「ちんたら村」の村民である賛助会員の遠足の開催や、毎月1回、都内の学習塾の生徒の受け入れなどを行いつつ、村での新しいあり方を模索しています。

自然に寄り添う生き方と経済性の両立を実現

  • 田原地区の集落に湧く「銘水滝の不動尊」
    田原地区の集落に湧く「銘水滝の不動尊」

苗を植え、稲を育てて米を収穫する。狩猟免許をとり、生き物をしとめてお肉をいただく。自給自足の生活は、実際にやってみると楽ではない、不便な要素がたくさんあったといいます。「けれども、自然と寄り添う生き方にはとても魅力を感じますし、まぶしいくらいに今でも僕をひきつけています」と山本さん。

遠方から人が訪れるときなどは、「銘水滝の不動尊」などの湧き水をくんでもてなすそう。この水源は、放置された自然ではなく、集落の人々の手によって守られてきました。
「里山の環境で完全なる自給自足は難しい。木を切って森を守る人、水源を管理する人、里山はマンパワーによって維持されている。けがをしたときの医療のありがたさも身にしみました」

この場所での生活を通じて、社会と共存しながら自然と寄り添う生き方をしていけたらと考えるようになったという山本さんが今、注力しているのは「ローカルベンチャー」だと話します。
「どうすれば若い人が事業を起こせるのか、事業性をともなって発信していけるかに注力しています。自給自足的な理想の生活を思い描いていましたが、暮らすうちに自分や周りの状況が俯瞰してみられるように。ここで暮らしながら、社会に必要とされる事業をおこし、雇用を増やし、この地域の集落の持続可能性を高めたいと考えています」

現在は週3日、集落と同じ上総地区で30年以上続く「断食道場はぎのさと」で働き、事業継承の準備も進めている山本さん。
「断食道場は自然を活用して心と身体を健康にすることが目的。自然の中に身をおくと五感がとぎすまされ、心身ともにリラックスできます。デジタルデトックスなど便利さに対する引き算が、人にいい効果を与えるのではないかと考えていて、自然の中で子どもを育みたいという自分の方向性と合致しています」

断食道場での収入は、インフラなど村の維持につなげているそう。「理想だけではなく、自分のビジネスを事業ベースで考えられるようになって、この地に還元できるようになった」と話します。

自然の通訳者となり、地域の自然と歴史を伝える

湊川の支流、高溝の集落の沢を案内する山本さん
  • 沢歩きの相棒は、ホワイトスイスシェパードの才蔵
    沢歩きの相棒は、ホワイトスイスシェパードの才蔵
  • 沢には天然のウナギやモクズガニも生息
    沢には天然のウナギやモクズガニも生息

「川廻しの手掘りのトンネルと言った上総地区独特の風景を眺められる沢歩きなど、ネイチャーガイド的な活動も行っています。人家のない深山や清らかな川の上流にも、『ちんたら村』から気軽にアクセスできます」と話す山本さん。

川廻しとは、トンネルを掘るなどして蛇行する川の流れを変え、もともと川があった場所を水田化する工事のこと。飢饉に備えて、江戸時代から明治時代にかけて行われていた上総地区独特の風景です。

「単なるネイチャーガイドではなく、インタープリターとして活動しています。インタープリターとは“通訳者”の意味を持つ自然案内人。自然の発するメッセージ、そこに生きる人々の歴史や生き様をわかりやすく伝えていきたい。このあたりはニホンザルの生息地として国の天然記念物に指定されているほど自然が残り、鋸山から鹿野山に続く古道は関東の修験道として長く利用されてきたなど人々の歴史も色濃く残っています。日本人は自然と人とをわけて考えていない。そこにある自然と、自然と共生してきた集落の歴史を、子どもだけではなく大人にも理解してもらうための活動を続けています」

田舎暮らしならではの、生き物との付き合い方

  • 黒白の毛並みを持つ恵比寿
    黒白の毛並みを持つ恵比寿
  • 山本さんの膝の上でくつろぐ黒猫の旭
    山本さんの膝の上でくつろぐ黒猫の旭

「地域の人と一緒に遊び、地域にとけ込むほどに、この地域の魅力がどんどん増していく。集落の人たちは、何世代もかけて山の暮らしをしてきたリスペクトできる先輩。ここでしかできない暮らし方や楽しみ方を日々教わっています」

狩猟も、ここで教えてもらったことのひとつ。出勤前など仕事の合間に、農作物を荒らす動物の有害駆除を行う中、新たなミッションが生まれました。
「有害駆除を行うと報奨金は入りますが、捕獲した動物の9割が捨てられているという現状を知り、とてもいびつな循環に感じてしまって。自分は月30頭ほどの鹿をしとめていますが、肉は無料で富士サファリパークに引き取ってもらっています。現在は敷地内に解体処理のための建物を作っている最中で、ペットフードに利用するなど捕獲した命を無駄なく循環させる方法を考えています」

狩猟やネイチャーガイドで山や沢を歩くときは、ホワイトスイスシェパードの才蔵が頼れる相棒に。才蔵は殺処分される犬がいると聞き、施設から引き取った保護犬です。

「昔は牛や馬を育て、人と動物との距離はとても近く、接し方もおおらかだった。自分自身も今ここで動物たちに救われていますし、自然とともにあるありがたさを教えてくれる。
木や虫、動物、生き物とともに暮らすことは、今の社会にとっても必要なことだと思う。
都心ではペットを飼うハードルが高くなりますが、ここでは大型犬ものびのび暮らすことができます。犬だけではなく、猫もマムシを倒してくれるし、ネズミなどの小動物が家に侵入するのを防いでくれます。人と動物は共存関係にあることを強く意識できます」

自然と動物に寄り添い、大人も子どもも生きやすい社会を目指す山本さん。その挑戦と模索はゆるやかに形を変えながら今も続いています。

 

人の営みの原点を体験しつつ、ローカルベンチャーで地域に貢献

プロフィール

富津市

山本 和志さん

家族構成 1人、犬1頭、猫2匹
職業 ちんたら村・村長、断食道場はぎのさと・事業継承予定
住居 DIYでリフォームした古民家

相談窓口

移住に興味がある方は、県や市町村の移住相談窓口にお気軽にご相談ください。