苗を植え、稲を育てて米を収穫する。狩猟免許をとり、生き物をしとめてお肉をいただく。自給自足の生活は、実際にやってみると楽ではない、不便な要素がたくさんあったといいます。「けれども、自然と寄り添う生き方にはとても魅力を感じますし、まぶしいくらいに今でも僕をひきつけています」と山本さん。
遠方から人が訪れるときなどは、「銘水滝の不動尊」などの湧き水をくんでもてなすそう。この水源は、放置された自然ではなく、集落の人々の手によって守られてきました。
「里山の環境で完全なる自給自足は難しい。木を切って森を守る人、水源を管理する人、里山はマンパワーによって維持されている。けがをしたときの医療のありがたさも身にしみました」
この場所での生活を通じて、社会と共存しながら自然と寄り添う生き方をしていけたらと考えるようになったという山本さんが今、注力しているのは「ローカルベンチャー」だと話します。
「どうすれば若い人が事業を起こせるのか、事業性をともなって発信していけるかに注力しています。自給自足的な理想の生活を思い描いていましたが、暮らすうちに自分や周りの状況が俯瞰してみられるように。ここで暮らしながら、社会に必要とされる事業をおこし、雇用を増やし、この地域の集落の持続可能性を高めたいと考えています」
現在は週3日、集落と同じ上総地区で30年以上続く「断食道場はぎのさと」で働き、事業継承の準備も進めている山本さん。
「断食道場は自然を活用して心と身体を健康にすることが目的。自然の中に身をおくと五感がとぎすまされ、心身ともにリラックスできます。デジタルデトックスなど便利さに対する引き算が、人にいい効果を与えるのではないかと考えていて、自然の中で子どもを育みたいという自分の方向性と合致しています」
断食道場での収入は、インフラなど村の維持につなげているそう。「理想だけではなく、自分のビジネスを事業ベースで考えられるようになって、この地に還元できるようになった」と話します。